新橋人形の館 館主の日記

燃えサントラ&泣きロック酒場 BAR 新橋人形の館 館主の日記です。

「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」~「孤島の鬼」「パノラマ島綺譚」「インスマスの影」

江戸川乱歩の小説をいくつか続けて読んでいると、それぞれの作品に登場する海岸線、孤島、岩壁、洞窟、蔵、古井戸、屋敷、屋根裏、蠢く虫、長椅子、街頭、車、曲馬団、見世物小屋、看板、そして世間に異和感を持って生きている人間たち(時には不遇者であり、時には性的倒錯者であり、時にはその生業が作家である)、それらすべてのものが一つの景色、一つの場所で、同居しているように思えてくる。

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丸尾末広 漫画「芋虫」「パノラマ島綺譚」より)

『この通りの角を曲がったところに車を停めて、誰かが息を潜めている!』『この叢の奥にある離れで、不遇な男女がむごたらしい日常を繰り返している!』『この屋敷の屋根裏や長椅子の座面や背もたれの内側に、きっと誰かが隠れている!』というように、近所を何周散歩しても、寝覚めが悪い幻想が繰り返されている感じだ。

 

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  映画「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」(1969年)  監督 / 石井輝男

「孤島の鬼」「パノラマ島綺譚」をはじめとする、数々の江戸川乱歩の怪奇幻想小説映画『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間は、石井輝男監督が臆することなく自由な閃めきを次々とスクリーンに連写して、これら江戸川乱歩作品に蠢く“文学的グロテスク”を一本の映画に集結させている。

 

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日本海のとある町。沖合に浮かぶ孤島。とある町の名士であり、孤島の主である男は、生まれつき手に蝦蟇のような水掻きを持っていた。そのため人目を避けて、男は無人の孤島に移り住んだ。

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町の名士である彼は、莫大な資金を投じてその孤島に狂気の楽園を創り上げていた。閉ざされた孤島の住人は、人間も動物も混ぜこぜに、頭・手足・胴体をバラバラで不規則に継ぎ接ぎにされ、奇妙で名状しがたい、さながらサファリパークのような島で彼に ”飼われて” いた。住人たちは飼い主である彼に服従し、島中で妖しい大曲技団となってカーニバルを繰り広げているのだった。

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     丸尾末広 漫画 「パノラマ島綺譚」より )

 

この島は、健常者たちの偏見や嘲笑に対する、また生涯ただ一人純粋に愛し憧れた妻の残酷な裏切りに対する、彼の深く哀しい怨恨と復讐、そしてひとときの癒しをかなえるための ”夢の島“ だったのだ。

男は最期に、妻に「ゆるす」と言い遺し事切れる・・・。

 

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丸尾末広  漫画「芋虫」より )

 

屋島は全島が岩でできていて、青いものはほんの少ししか見えず、岸はすべて数十尺もある断崖で、こんな島に住む人があるかと思われる場所だ。

断崖の裾が海水のために浸蝕されてできた「魔の淵」という奥行きの知れぬほら穴の中に、魔性のものが住んでいて、人身御供を欲しがるのだろうという伝説がある。

江戸川乱歩「孤島の鬼」より )

 

乱歩の孤島の物語は、世間から忌み嫌われて孤立した港町 = インスマスの町 の住人たちを私に想い起こさせた。

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インスマスの港から遠い沖合に頭をもたげた暗黒の火山島、通称「悪魔の岩礁」。

その岩礁の暗黒の淵、深海にある巨石で造られた古代の街に住む両棲類、形容するなら、蛙に似た魚・魚に似た蛙の化物、その “深きものら”は地上に種族を広げるために宝飾品と豊漁の対価として人身御供を求め、やがて生まれた混血児 の末裔が、インスマスの住人たちなのだ。

インスマスの町の住人の身体の形は、人間に似ているが色は灰緑色に光ってつるつるしていて、背には鱗がある。頭は魚の頭で頸には鰓(えら)があり、長い前足には水掻きがついている。二本脚であるいは四つん這いになって、とび跳ねる名状しがたい魚蛙の姿をしている。

(H・P・ラヴクラフト作「インスマスの影」より)

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      ( 田辺剛 漫画「ダゴン」より)

 

私の妻の右側の腿の上部の所に、恐ろしく大きな傷の痕がある。そこには不規則な円形の、大手術の痕かと見える、むごたらしい赤痣があるのだ。

それはちょうど、そこからもう一本足がはえていて、それを切り取ったらこんな傷が残るだろうと思われるような、なみたいていの異変で生じる傷口ではないのだ。

江戸川乱歩 「孤島の鬼」より)

インスマスの影」で、”深きものら“ は “人魚” の伝説の元になっているのではないか、と老人が話すくだりがある。

ならばいっそ、これに倣って

「彼女の腿に遺っている傷痕は、人魚の尾びれを切り取った跡なんだよ」と言えば、凶々しい過去の出来事が、やがて美しい伝説として子孫に語り継がれるかもしれない。

 

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